ブレンデル:シューベルトのピアノソナタ21番(9/4)

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F.Schubert Piano Sonata in B flat, D.960 (No.21) / Fantasia in C, D.760 "Wanderer"
 Alfred Brendel (p)
PHILIPS 422 062-2

 先入観というものは、恐ろしいものです。なかなかに抜き難い。好きなものなら尚更。

 この間、ラジオをつけたら、丁度シューベルトのピアノソナタ21番、シューベルトの最後のピアノソナタが掛かっていました。途中から聞いたんですね。第4楽章の途中だったかな?もう後半ですね。聞きながら、うひゃぁ、派手だなぁ、と思っていたのでした。最後の和音などスタッカートじゃないの?という勢いで。
 一体これは誰だろうな?最近の若い人?などと思いつつ演奏者の紹介を聞いてびっくり。ヴィルヘルム・ケンプだというのです。ケンプのシューベルトD.960と言えば、最近こそ実際には聞いていなかったものの、自分の中ではD.960の名演の一つ。覚えてないのは仕方ないけど、でも、こんな演奏だっけ?と考えて、はたと思い当たったのでした。
 自分はケンプのに限らず、この曲は第1楽章が勝負だと思ってます。提示部の歌、繰り返しに至る経過句の深淵、淡々と進む再現部、主題を裏返したような展開部から再現部での歌、という具合に、この第1楽章の主題の歌が全てだと。実質ここがクライマックスだと思ってるんでしょうね。だから、第二楽章は承前更に極まれり、てな感じの極北の心象風景とも言うべきもので、スケルツォを経て最終楽章のロンドは、といった調子で、第1楽章が支配的、という見方。その線でケンプの演奏も捉えてます。

 だから、第1楽章抜きでいきなり最終楽章だけ聞いて、なんだこれはとなったんでしょう。でも、ここだけ取り出して聞くとそんなに印象が変わるならば?もし、第1楽章をクライマックスにしないならば、世界はどう見えるのか?いや、知っているつもりではあったけど、「そのように」聞いたら世界はどう変わるのか。ちょっと考え込まざるを得ませんでした。

 で、これを出してきました。私の大好きで嫌いなブレンデル。繰り返さないブレンデル。繰り返されないシューベルト。いや、それこそがあるべき姿という、まぁブレンデルはそのつもりで演奏したのでしょうが、それを肯定的に受け入れて、そのように積極的に聞くと、よりポジティヴに聞くと、どうなるか?

 繰り返されないということは、第1楽章の主題を際立たせる、あの暗闇のような経過句を伴わず、結果第1楽章の主題も特別に扱われることも無い。つまり、音楽上のクライマックスがここにくるとは限らない。それを肯定的に捉えると、ピアノソナタという曲としてのバランスが良くなります。元々構成に拘ったシューベルト、ああそれなのにあなたの書くものはとても歌心に溢れていて、というのを少し後ろに配すれば、とてもバランスのいい曲となる可能性があったわけです。
 そういう時、ブレンデルは実に頼もしい。

 ブレンデルの演奏では、時に彼岸の向こうにも思えるような第2楽章が、そこまで極端ではない、普通の緩徐楽章として演奏されます。スケルツォも、最後のロンドも、極端に感情的ではない、抑制されたというより、冷静に音楽として計算されて演奏されます。ここでいう計算は、打算とか数値置き換えということとは違って、いわば「この曲を演奏するには、どのようにアプローチすべきか」という計算。
 そして、ブレンデルのアプローチは、恐らくは「この曲を古典派の流れを汲む、構成のあるソナタとして演奏する」というものだと思います。多分。まぁ、それは分かりませんが、そのように捉えて聞くと、面白いです。
 多分ブレンデルは、この曲のクライマックスを第1楽章には置いていないと思います。むしろ、感情は抑え気味に、しっかりと弾いた第2楽章や最終楽章がとても魅力的な音楽になっています。他を圧するクライマックスは、恐らく無いのでしょう。そういえば、ベートーヴェンあたりのピアノソナタだって、この楽章こそクライマックス!という曲ばかりじゃないですし。

 それもまた勘違いかも知れません。でもまぁ、ともあれ、こんな風に聞き方を変えさせられるようなことがたまに無ければ、どんなものを聞いても同じものさししか持てないですからね。ずーーっと同じ一つの勘違いだけでやってくよりは楽しいってものです。




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