ウェーベルン歌曲集:白井光子(9/17)

Anton Webern Lieder
(Fruehe Lieder, Fuenf Lieder, Fuenf Lieder op.3, Lieder op.4, Lieder op.12)
 Mitsuko Shirai (mezzo-soprano)
 Hartmut Hoell (piano)
CAPRICCIO 10 862

 あくまでイメージなのですが、いわゆる新ウィーン楽派と呼ばれるシェーンベルク、ベルク、ウェーベルンの3人、盟友のようでいて実は全然違うこと考えてたんじゃないか、と思っています。

 シェーンベルクが書いた、正確には未完のオペラで「モーゼとアロン」というのがあります。題材を旧約聖書に取った作品ですが、モーゼは言わずと知れた預言者で、アロンはその兄弟だかなんだか。で、この二人は対立します。なんでかというと、要するに理想を追い求めて原理原則に拘るからなかなか他人がついて来ないモーゼと、まぁまぁそれはそれとして現実はさ、みたいなことを言って妥協しちゃう、つまりは応用力があるから受けはいいアロン、てな感じなんですね。モーゼが山に登って神様から十戒の石板を貰って来る。でも、民衆は待ちくたびれて騒ぎ始めるので、まぁまぁ場を収めるには仕方ないやと言って金の牛だかなんだかを祀って偶像崇拝を許しちゃうアロン。モーゼは怒りますよね。今のキリスト教徒だってそれは堕落である、としたり顔で言うだろうけど、現実対応能力があるのはアロン。
 で、元はそういう話じゃないとは思うんだけど、なんとなくこれシェーンベルクとベルクの関係にダブって見える気がするんです、私。
 確かに12音技法を切り開き、新ウィーン楽派と呼ばれるまでに発展させたのはシェーンベルクの功績。その手法を以って書かれた「月に憑かれたピエロ」など、確かに傑作。でも、ベルクには、12音技法の完成品の一つとも言えるヴァイオリン協奏曲があり、その上に20世紀のオペラでは5本の傑作の内にどうしても入れざるを得ない「ヴォツェック」がある。いずれも、「12音技法であること」と「音楽/表現として適切かつ面白い(ということは分かりやすい)」が両立している。その上に様々な作品群がある。12音技法を自らの表現として、その可能性を最大限引き出したのがベルク。
 で、この二人の関係は、まぁ分かる。

 じゃウェーベルンは?というと.......勿論この人も12音技法を見事に使いこなしている、というより洗練されているんですね。なんというか、とても都会的。何より、この人には、拘っていない、ツールとして使っている、という雰囲気があります。ピアノ曲なんかは恐ろしく冷静でドライな音楽に仕上がるのに、一方では「西風の中で」のような、微妙な雰囲気を持った音楽もある。
 ええとですね、シェーンベルクは仕方ないとして、ベルクにしてもどっかに「12音技法」、まぁその言葉だけでは括れないんだろうけれど、そういう「メソッド」に引っ掛かってるところがあると思うんですね。良くも悪くもそういうものに根差してしまった部分を抱えてると言うか。モーゼとアロンですね。
 ところが、ウェーベルンは、何て言うんでしょうね、俺はそういう教義とかかくあるべしとか関係ないよ、というか、そもそもそういうのと関係無いとこから来て、好きにマイペースでやっちゃった感があるんですね。
 ウェーベルンには「西風の中で」みたいな音楽は書けたけど、ベルクには書けなかった。シェーンベルクは、12音技法に行く前には「浄夜」みたいなのは書けたけど、後には書けなかった。
 ウェーベルンはちょっとずるいよな、と思います。まぁ、彼が悪いと言うような話では全然ないんですが。

 んでもってウェーベルンでありますが、実はこの3人結構歌曲を残していまして、こないだもマーラーについて書いた白井光子に録音があります。これはその中のウェーベルン。
 1883年に生まれて1945年に亡くなったウェーベルンですが、最初の作品は1900年、17歳の作。一番遅いのが1917年作ですから、34歳の時。つまり、人生の半ばまで、創作活動期としてはむしろ初期の作品ですね。まぁ、作品1のパッサカリアは20台前半の作だったと思うので、それなりに成熟して後の話ですが。
 で、ここに録音されている歌を聴くと、興味深いです。この年代というのは実は音楽年表的にかなり入り組んでいて、20世紀初頭というのはマーラーとR・シュトラウスとウェーベルンらが入り組んで活動していたわけで、ついでに言うと歌曲ではヴォルフも重なるのですが、まぁこの人達の作風を考えると面白いことこの上なし。でも、そういう目で見ると、なるほどウェーベルンの歌曲が最初かなり保守的な作風を呈していたのもおかしくないのか、と思い至ります。ウェーベルンはマーラーを敬愛していたという話をきいたことがありますが(間違い無いかな?)、この若年の頃の作風はむしろR・シュトラウス。
 ところが、徐々に独特の作風へと進んでいきます。和声進行は我が道を行き、それでいてどうしようもない不協和というのとも違う。ベルクなんて、かなり鋭い作風に行ってしまってますが、そういうのとは違う。
 もっとも、更に先に進むと、それも苦しくなってくる。ウェーベルン特有の音符の少ない作風が現れてきて、歌も、勿論曲を付ける詞がそうだからというのもありますが、短時間の作品に移行していきます。でも、やっぱり何処かでまだ歌なんですね。これは、歌っている白井光子のパフォーマンスの故もあるのでしょうが、それなりに聞くに堪えるものになってます。

 演奏者の白井光子、ハルトムート・ヘルの両名には不満はありません。お見事。



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