岩城宏之/オーケストラ・アンサンブル金沢:モーツァルトとチャイコフスキー (3/18)

W.A.モーツァルト:交響曲第40番 ト短調 K.550
P.I.チャイコフスキー:弦楽セレナード ハ長調 op.48

 オーケストラ。アンサンブル金沢
 岩城宏之 (conduct)
ビクターエンタテインメント PRCD-5041


 岩城宏之亡き後のオーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督に、井上道義が就任したそうです。正直に率直な感想を言うと、「あーあ.....」の1語に尽きます。
 井上道義がダメな指揮者と言う訳ではないのです。彼の演奏を全く聞かないわけではないし、時にはいい演奏も聞けることもある。ただ、彼は、オーケストラの「常任指揮者」や「音楽監督」をやったことはこれまで無くて、関係の深かったオーケストラでも、彼によって育てられたと言えるところが殆ど無いのです。

 この間書いたセル/クリーヴランド管などもそうなのだけど、指揮者の仕事は、単に演奏を指揮し、音楽を奏でる以外に、もう一つ重要な仕事があります。それは、オーケストラ・ビルディングとでもいうものです。
 日本ではあまり認識されてこなかったことのようですが、実はオーケストラというのは楽団員を集めれば自然に出来上がるものではありません。本当に優れたオーケストラというのは、相互の音がきちんと溶け合うように合奏出来なければいけないし、その音がどの方向に向かうのか明確化されていなければいけない。その上でどういうことをやって行くかも。その仕事をやるのが、音楽監督や常任指揮者の仕事です。
 オーケストラを育てる、というのを「オーケストラ・ビルディング」と言いました。そういう用語があるのかどうかは知りませんが、事実そういうものだと思います。オーケストラの音そのものを洗練させる「サウンド・ビルディング」、その上でそのオーケストラが独自に持つ、全員が目指すべき響きを指し示し、導く「トーン・ビルディング」、その上でレパートリーを作っていく「レパートリー・ビルディング」。この3つでしょう。最後のは、単に演目を増やすだけでなく、ある種のレパートリーを固める中で、「この種の音楽ではこういう表現をする」という意味でレパートリーを築いていくことを含みます。これも指揮者の仕事。これが出来なければいい指揮者ではない、とは言いません。ただ、明らかにこういうことが出来る人と出来ない人が居て、出来ない人でもいい演奏は出来るけれど、そういう人が常任になっても、客演指揮者の場合演奏が後退したり、退いた後は途端にレベルが落ちたりするものです。逆に、ちゃんと出来る人がやれば、その後で引き継いだ人でもそれなりにいい演奏が出来るようになる。いわば「遺産」が遺せている訳です。
 いいオーケストラというのは必ずそういう人が居て、あるいは居た時期があって、それがオーケストラを確立する礎になっているのです。常任や音楽監督が全くいないのに一流と言えるクラスになっているオーケストラは、せいぜいがウィーン・フィルとオルフェウス室内管くらいでしょう。
 日本の場合、ある時点でN響などが「自分達自身が"日本楽壇"では一番"偉い"んだ」と考えるようになったらしく、その辺から「常任指揮者/音楽監督に指導して貰う必要なんてないんだ」と考えるようになったようです。その"思想"がどうも各オケにも広まった時期があるようで。

 現実に、日本で最近実力が上がっているオーケストラは、常設の決まった小屋があるとかいうこともありますが、それ以上に必ず「ああ、あの人」と言いたくなる様な常任指揮者や音楽監督がいて、その人がかなり頻繁に指揮=指導することで、この「オーケストラ・ビルディング」の過程を踏んでいるのだと思います。新日フィルであればクリスティアン・アルミンク(今の上り調子になったのは明らかにアルミンク以後)、この間聞いた仙台フィルはパスカル・ヴェロの影響が大きいようだし、出発点が低レベルではあるけど都響にはジェイムズ・デプリースト、そして勿論オーケストラ・アンサンブル金沢には岩城宏之。

 この録音は、オーケストラ結成3年での録音ですが、既にこの過程で言えば「サウンド・ビルディング」が出来上がったくらいなのかなと思います。まだ、「オーケストラ・アンサンブル金沢の響き」というところまでは行っていないという感じだけれど、モーツァルトの格調の高い響きは立派です。それと、明快な演奏。後年、この組み合わせでモーツァルトの後期交響曲集というのを録音しますが、その際には更に精度の高い合奏 - 楽譜に対し良く合っているという問題ではなく、オーケストラとして響きがきちんと溶け合い、一つの方向へ向かえているという意味で - を聞かせてくれます。それはまた別の話として、この明快さはチャイコフスキーでも変わりません。モーツァルトとチャイコフスキーをきちんと演奏できる楽団を作った。これが、岩城宏之のこの時点での最大の成果だったのではないでしょうか。

 このCDの帯に、岩城宏之の言葉が載っています。英訳付きで。
 「ぼくは、このオーケストラを通じて金沢から日本全体に、そればかりでなく世界全体に新鮮な文化を発信しようと思っています。
 オーケストラ・アンサンブル金沢
 音楽監督 岩城宏之」
 "I plan to use this orchestra as a vehicle for bringing a new cultural experience from Kanazawa to Japan - indeed, to the entire world."

 その言やよし。



AUTHOR: 音痴 DATE: 03/22/2007 11:34:19 ヴェルディ様お久しぶりです。ご健筆、慶賀の至りです。
ところで井上さんですが、評価は別として、彼は1977~1988年に新日本フィル音楽監督、1990~1998年には京都市響音楽監督、常任指揮者を歴任しています。
話は変わりますが昨日(3月21日)の新日本フィルのローエングリン、素晴らしかったと思いますが、お聞きになりましたか?
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