ブリテン:ピーター・グライムズ (9/1)

B.Britten : "Peter Grimes"
 London Symphony Chorus and Orchestra, etc.
Sir Colin Davis (conduct)
LSO Live LSO0054

 音楽家の生活 - 公私問わず - と作品との間に因果関係はあるか?結論から言えば、ある場合も無い場合も両方あります。シューマンの精神病の兆候は作品にも現れている云々、みたいなのは、ある意味トンデモ説でもありますが、そういうことでなく、直接的に、作曲者の意思によってその生活、思想が作品に明確に刻印されることはあります。スメタナの弦楽四重奏曲「我が生涯より」なんていうのは、作曲者自らその作品の下敷きになっているのが自らの半生であると語っているという、いわば典型例。自らの生涯が作曲の動機にもなっているという点でも。

 ブリテンは同性愛者であったことは広く知られています。しかしまぁ、知られていることとそれが認められること、受け入れられることは、恐らくはまた違うのでありまして。そうしたことがあってか、彼の作品には、時に社会を批判する視点が色濃く反映されるのであります。
 昨シーズンに新国立劇場の研修公演で、ブリテンの「アルバート・ヘリング]が上演されました。これは喜劇で、「モラル」なるものを殊更に重視する偽善的(英国)社会を笑い飛ばすというもの。そこでのご立派な偽善的社会は大仰に描かれています。「真面目で模範的青年」アルバート・ヘリングが、この偽善の鼻を明かす痛快なストーリーであります。
 言ってみれば、「ピーター・グライムズ」は、この作品の光と陰の関係、ある意味最も近しいオペラとも言えるかも知れません。偽善的社会を見事出し抜いたのが「アルバート・ヘリング」ならば、社会の偽善によって圧殺されたのが「ピーター・グライムズ」でしょうか。

 実際、このオペラでブリテンが「社会」「世間」を表現した手法は、アルバート・ヘリングの時のそれと同じです。言わずもがなの「正論」を大仰に賛美し、悪徳を殊更に非難するそれは、勿論諧謔に満ちた喜劇でありますが、ピーター・グライムズにあってそれは最終的に「犯罪者」の「罪」を告発する正義の鉄槌へと変貌します。その実、それは自分達の「常識」を振りかざしたリンチに過ぎないのですけどね。
 ブリテンの現代性はここにあります。「自分の正義を振りかざしたリンチ」はネットでお馴染みでしょう?そう言ってる私や、「自分は違う」と思っている貴方だって、何処で同じことをしているとも限りません。

 ブリテンにとって、社会はどのように見えていたのか、と思います。ブリテンの描く「社会」は、ショスタコーヴィチほどグロテスクでもなく険しくもないですが、それだけにその切実性と言うか、迫り来る圧力は如何許りかと思わざるを得ません。言ってみれば、主に政治的な抑圧であるが故に、ダイナミックであると同時にヒロイックで自らの正義を認められる可能性が高く、それを信じて生きられるショスタコーヴィチに比べれば、ブリテンのそれは、即座に生命の危機に繋がることはないけれど、極めて私的で、それ故に正義として認められることも考えにくいだけに、より厳しいものではなかったかと思います。今だって、それなりに認められはするけれど、それはあくまで「公式には」ってところですからね。やおい系がブームって言ってみても、現実世界の同性愛を積極的に支持してくれるとも、も一つ思えないし。
 町の人々が、ピーター・グライムズが少年を殺害したと考え、彼を捜し出して捕まえようとする。合唱が彼の名を叫ぶ。この「ピーター・グライムズ!」の叫び声のなんと恐ろしいことか。それがブリテンの目に映る「社会の正義」というものなのか。それが、彼自身の実際の体験や心象に基づいていたとは断定しませんが。

 彼自身の経験は知らず、ブリテンの現代性はこの一節を見ても明らかです。ブリテンの作品は、もっと聞かれて然るべきだと思うのですが、日本では何故か評価が進みません。多分、交響曲とか弦楽四重奏とか、ドイツ的絶対音楽の少なさ故に不遇なのではないかと思うのですけども。主要作品にオペラが入って来る時点で、厳しいのかなぁ、やっぱり。

 CDは、最近盛んに活動しているロンドン交響楽団のライブ盤。2004年の録音。これは!という歌手が居る訳ではないですが、演奏は締まりがあって、音質も悪くないし、十分です。




スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

プロフィール

verdi

Author:verdi
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2ブックマーク
FC2カウンター
118,000アクセスくらい+
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード