本:吉田秀和「私の好きな曲」 (1/5)

私の好きな曲
 著:吉田秀和
 ちくま文庫 よ-20-1 ISBN:978-4-480-42391-7

 今日はCDではありません。本の話。
 いや、元々このblog、本についても書こうと思ってたんですが、そういうことを全然書かないままに今に至るのです。最近は殆どクラシック音楽ばかりですね。まぁ、そういうblogと思われているとは思うのですが.....

 吉田秀和。ある程度ディープなクラシック好きであれば、何処かで名前を目にしている評論家です。「評論家ぁ?」なんて向きもおられるでしょうが、これはある意味上質の入門書、クラシック音楽への扉を開いてくれる本です。

 最近はちょっとしたクラシックブームで、いろんな「入門書」が出されていますが、正直言うと、大体が同じようなパターンです。多少主張や目の付けどころは違うけれど、要は名曲の類いをセレクトして、これはこんな曲ですよ、こういういわれでね、こうでこうで、ここがいいんですよ、とまぁ大体がそんなところ。たまに「私はこういうのがいいと思う」みたいなことが書いてあって。
 ま、どれか一冊読んでおけば十分って感じです。いや、そもそも入門書ってそういうものですしね。

 この本は、そもそもが入門書ではありません。
 昔々、1970年代に雑誌(多分芸術新潮か何かだと思うのだけど)に連載されたものをまとめたもので、初版は1977年に新潮社から。その後1985年に新潮文庫に入ったのだけど、先年絶版になっていたものがちくま文庫から出されたものです。
 で、内容的には、既にクラシック音楽についてはそれなりに、古臭い言い方をすれば素養がある読者向けのものではあります。だから、あまりクラシック音楽に詳しくない人が読むと、厳しそうに思えます。

 ところが、実はそうではない。
 私がこの本を最初に読んだのは、それこそクラシック音楽を聴き始めた頃のことで、勿論こっちには大した知識はありません。でも、読めたし、面白かったんですね。
 いや、分からない部分は沢山ありましたよ。というか、今でも分からない部分は少なくないです。でも、読めるんです。面白いんです。何故かと言うと、多分、根底に、著者の「想い」が見えるからなんでしょう。

 結局、この本は、「私の好きな曲」について書かれた本なのです。だから、そこで書かれるのは、若い頃著者がどのようにしてその曲を知ったか、とか、エピソードであるとか、そうしたことに始まり、何故著者がその曲を好きであるのかを説明し、更に楽曲の簡単な分析を加えて終わる、とか、大体そんな内容です。で、面白いのは、著者の個人的エピソードもあるのだけど、「何故好きであるかの説明」の部分、「どのへんがいいのか」の部分が面白いのです。面白いと言って悪ければ、興味深い。例えば、こんな調子で。ベートーヴェンのピアノソナタop.111について書かれた文章の一部から。

 だが、近年は、これをきいていると、いいようのない悲しみを感じるようになってきた。悲哀といっても、何も、不幸だというのではない。静かな品位がそこにあるのだから。....(中略)....この変奏曲は、あまりにも純粋で、個人的恣意がまったくしめだされているという印象を与えもするのだから、よけいに私たちの身にしみるのかもしれない。
 (私の好きな曲 吉田秀和著 ちくま文庫 p.41-42)

 こういう文章だったりします。見ようによっては不正確で主観的かつ感覚的過ぎて、ついていけない、と思われる方も多いでしょう。或いは、その曲自体を既に知っている人でなければ共感しにくいかも知れない。でも、知っていれば知っていたで、結構「なるほどね」と思う部分もあるのもまた事実なのです。
 だから、いわゆる「入門書」、なんだかよく分からないけど聞いてみようか、という人には辛いのかも知れないけれど、ちょっと聞き始めて、もっと色々聞いてみたい、と夢中になりかかった人にとって、これは面白いのです。勿論、著者の独特の言い回しや文体に親和性が無いと厳しいかも知れないけれど。

 全26曲を取り上げていますが、なかなか独特の選択です。ベートーヴェンの弦楽四重奏のop.131を最初に持って来る入門書なんてまぁないでしょうし。でも、この本を読むと、一度聞きたくなってしまうのです。少なくとも私は。
 どんな本なのか、一度立ち読みでもしてみて下さい。2つ目の、上にも引用したベートーヴェンのピアノソナタ op.111がお勧めです。取り敢えずこれを読んでみて、面白そうだったら買ってみていいんじゃないかと思います。私もこの曲は好きなのだけど、この本を読まなければ恐らく今のようにこの曲を好きになるということは無かったろうと思います。本当に、この本には結構多くを負っているというのが正直な所でして。いや、畏れ多くも、自分がこうして書いている文章の少なからぬ部分で、吉田氏の文章に影響されてるんだろうな、と思う面も多々あるのです。
 だからこういう風に紹介してしまったりするのでありますけどね。



AUTHOR: mozart1889 URL: http://www.doblog.com/weblog/myblog/41717 DATE: 01/06/2008 09:54:33 おはようございます。
吉田秀和について、Verdiさんに全く同感です。ホンマ、入門書なのに専門書っぽく、でもとても読みやすいです。
この本、新潮文庫版で持ってます。発売直後に買いました。あのころ、新潮社は、吉田秀和の著作を盛んに文庫化してくれていました。
ハードカバーの方は、当時ビンボーだったのでなかなか買えなかったんです。ですから、文庫化がどんどん進んだときは嬉しかったです。新潮文庫での吉田秀和は、全部持ってます(^^)V

今は白水社の全集が欲しいんですが、そのうちお金を貯めて(絶版になる前に)買っておこうと思っています。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

プロフィール

verdi

Author:verdi
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2ブックマーク
FC2カウンター
118,000アクセスくらい+
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード