[ラ・フォル・ジュルネ] シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 D.960

F.Schubert : Piano Sonata in B flat D.960 / Lieder (Viola D.786, Der Winterabend D.938, Abschied von der Erde (melodrama) D.829)
 Leif Ove Andsnes (piano)
 Ian Bostridge (tenor)
 EMI 7243 5 57901 2 5


 我ながら呆れてしまうのですが、この曲、これまでに3度も取り上げているのです。つい一ヶ月前にはベルマンの演奏を取り上げ、それ以前にはデーラーブレンデルを取り上げてきました。まぁ、好きな曲で、かつ稀代の名曲なので、どうしようもないです。
 で、懲りずに再度取り上げるのです。まぁ、シューベルトを語る上で、この曲はどうしたって外せません。

 シューベルトの作品の多くは、作品番号を持っていません。でもそれだと、一体どの作品がどんなものだか、整理がつかなくてよく分からないので、後世の学者が番号を付けています。バッハのBWV、モーツァルトのケッヒェル番号(K)、ハイドンのホーボーケン番号、などなど、同様のケースは少なくありません。
 シューベルトの場合は、ドイッチュという学者が番号を振りました。なので、ドイッチュ番号と呼ばれます。Dの後に番号が付いています。作品の書かれた時期の順に番号が振られています。これはモーツァルトのケッヒェル番号と同じ方式です。ケッヒェルの方は620番くらいで終わっていますが、ドイッチュの方は960番台まで付いています。もうちょいで大台だったのに.......

 ドイッチュ番号で950番あたりは、ですので、最晩年の作品群、ということになります。その中でも956番以降は至玉の傑作群、なんてことをつい言いたくなってしまいます。まぁそれも正直無理は無いのでして、D.956は弦楽五重奏曲(分かる人には分かる大変な作品)、D.957が歌曲集「白鳥の歌」、そしてD.958、959、960 がシューベルトの最後の3大ソナタ。生前は作曲家としては決していい扱いではなく、むしろ素人同然の扱いだったシューベルトですが、この5つの作品の内どれか一つだけでも、十分歴史に名を残せるというくらいの作品です。

 D.960は最後のピアノソナタ。事実上恐らく最後の器楽曲作品と言われています。全部で40分以上掛かるのが普通、という、長大な作品ですが、よくある「長い曲」に比べると、決して飽きることはありません..............多分。うん、飽きないと思うんだけど。
 一番長いのは第1楽章。これが20分ほど掛かります。何故そんなに長いのかというと、「ちゃんとしたソナタ形式を墨守しているから」なのです。

 半ば素人と看做されていて、主な作品は歌曲だったシューベルトは、言ってみれば「ちゃんとした作曲」というのに少なからぬこだわり、というよりむしろコンプレックスを持っていたと言ってもいいかも知れません。作曲家として形式をきちんと整えた作品を書くことは彼にとって重要なテーマの一つだったようです。
 故に、即興曲集や「楽興の時」の作曲家は、ピアノソナタを書き続けます。第一楽章はソナタ形式。第二楽章は緩徐楽章で、第三楽章でスケルツォを書いて、第四楽章はロンド形式とか変奏曲形式。テンポも古典的で、彼の後期のピアノソナタは殆どが4楽章形式で、中-緩-急-急。第四楽章はいつもアレグロかアレグレット。ワンパターンです。
 ソナタ形式というのは、4つの部分に分かれます。主題を登場させる提示部。もう一度主題を聞かせる提示部の繰り返し。主題を変奏したりさせる展開部。もう一度主題を聞かせる再現部。シューベルトは、この通りに書いているのですが、それぞれのパートが殆ど同じくらいの時間掛かるのです。各パート5分。これは、実はソナタ形式としてはちょっと展開部が弱い、と言えなくもないのですが、まぁ古典的作品としてはこんなものです。でも、本来は結構退屈な筈です。だって、提示部・その繰り返し・再現部は、事実上殆ど変わらない内容を聞かせられるのですから。

 でも、シューベルトの場合、この提示部がとても魅力的なので、飽きないのです。特にこのD.960は。中庸な、歩くような速度で演奏される静かな主題は歌のようで、それが延々と続くのです。はっきり言って、これはソナタの主題と言うよりは、ピアノで歌われる歌なのです。歌だったら、5分くらいかかっても、それほど変ではないですよね。勿論「主題」というべきメロディの部分はあるけれど(それだって古典派のソナタ形式の主題と比べても随分長いのだけど)、これは事実上「主題を中心に展開」というのではなくて、むしろ「20分の歌」と言いたくなるような作品なのです。
 シューベルトの器楽曲の「欠点」は、強いて言えばこの点だと思います。主題(というよりもう歌なんだけど)が長過ぎて、古典的な形式に入れるのが困難。それでも十分魅力的で、つい聞いてしまうのではあるのですが。
 だから、「ああ、長いんだ」「また同じか」と思わずに、音楽に身を委ねて、成り行きに任せて聞いてしまう、というのが、正しく楽しむ聞き方の一つではないかな、と思います。演奏者にとっても難しいのですが、それを如何に飽きさせずに聞かせるか。ピアニストによっては、提示部の繰り返しを行わないようにする人も居ますが(ブレンデルやヘブラーなど)、それも一方策とは思いつつ、私自身は同じ音楽をそれでも微妙に表現を変えながら繰り返し聞かせてくれる方が、シューベルトの場合はやはりいいのではないかと思っています。

 この作品も演奏は無数にあって、いい演奏も多数あります。シフ、ルービンシュタイン、リヒテル、アラウ、ハスキル(稀代の名演!)、ポリーニ(現代的演奏の最高位!)、などなど、ですが、今日は今が旬のピアニストの一人、アンスネスの演奏で。最近、シューベルトの後期ピアノソナタを集めて2枚組にしたものが出ましたが、あれは元々イアン・ボストリッジとの歌曲の演奏と、ソナタ一曲ずつとをカップリングして出したもの。このD.960では、歌曲3曲がカップリングされています。
 アンスネスの演奏は、現代的と言っていいと思いますが、十分に「歌」があるので、決して素っ気ない演奏ではありません。1980年代末にポリーニの名演があって、現代的な、過剰な思い入れを排した演奏が出来るようになってきましたが、アンスネスのはそれを踏襲した抑制の利いた演奏です。もう少し凄みがあってもいいのではありますが........




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